R O K A l o g

生活と二次創作妄想がまろびでます
works tora Wavebox 2026 me

No.3459

オメガバ五七の導入部 案

本を閉じる。思わずため息が出た。
 数日かけて、眠る前の時間で読み進めてきた一冊だったが、期待した内容から少しずつそれていき、半ば惰性で読み切った。本を読むのは好きだ、自炊と同じく、人生を豊かにしてくれる、私の趣味の一つだといえる。でも本ならなんでもいいわけではない。
 歴史ルポルタージュと銘打った、実際はファンタジー小説のまがいものだった。
「それ、読み終わったの、七海」
 ソファの隣に座っていた五条さんが、体を斜めにして私に寄りかかってくる。私の手元の本をのぞきこむようにして、「今回は時間かかってたね」と私の読書スピードについて分かったようなことを言う。
「アナタ、次、読みますか?」
「僕も好きそう?」
「どうでしょう。私にはありえない世界の話だと感じましたが、五条さんは夢想するのが好きでしょう」
 もしかしたらお好きかも、と内容に対する期待が外れた投げやりな気分で続けていると、本を持った腕にぐっと五条さんの体重がかかる。そのまま体の前、胸のあたりに五条さんがもたれかかってきて、背中側から回ってきた腕によって腰を抱き寄せられた。
 甘えた猫のような、にしては立派で獰猛すぎる猫だが、そういう五条さんの姿についたまらなくなって、私は彼のつむじのあたりにキスをする。家の中やホテルのベッドの上でだけ、私がこうして親密すぎる行為をしかけると、五条さんは「んふふ」とまろやかな声で笑って満足そうに体を揺らす。
「んーん、僕、本が読みたかったわけじゃない。ここんとこ、オマエ、仇みたいな顔してそれ読んでたでしょ」
 そんなに難しい顔をして読んでいただろうか。五条さんのみずから光っているような白い髪を撫でる。彼はくすぐったそうに首を振る。彼の高い鼻、なだらかな頬、やわらかな唇といった顔のおうとつが、私の下腹部をもぞもぞと探っている。
「っあ、ごじょう、さん」
「そんなにつまんないんなら、読むのをさっさと諦めて、僕といちゃいちゃすればいいのにって、待ってたんだよ。七海だってそうしたかったでしょ?」
 あとは眠るだけの、無防備な寝巻きの腰回りを、五条さんは前歯を使って器用にずりおろしていく。それを褒めるように、待ち侘びるように、私は彼の耳のふちを指で何度もこすった。
「ねえ、七海、わかる? 僕、ちゃんと待ってたの。オマエが、本を読むのを邪魔されるのは嫌いだって、昔ーーガキのとき、怒ったでしょう? だから僕、我慢したんだってば、そいつをオマエが読み終わるまで」
「ぅ、ん、っはい、ありが、とう、ございます、待ってくださっ、て……」
「僕、えらいでしょ?」
 自慢げにたずねる五条さんの吐息が、もう、私の素肌に触れる。
「僕を放って、意地みたいな顔で読んでた本は、きっと面白かったんだろうねえ。ためになる内容だった? オマエの興味を満たしてくれたんだろ?」
 この僕よりもずっと、と笑う五条さんはとても意地悪だ。私はソファの背もたれに後頭部をこすりつけるようにして天を仰ぐ。そうしていなければ、五条さんの頭をわしづかみにして腰に押しつけてしまいそうな焦れったさがあった。
「ね、面白かった? 七海。その本は、僕よりも?」
 強い口調は、たずねるだけではなく、言葉にして答えろと私に命じてくる。
「正直……っ、失敗だったかも、と……っ」
 答えるために口を開くと、熱い息が漏れてしまう。
「面白くなかったんだ?」
「あまりに、夢の世界というか、現実的ではないから、」
「夢想って言ってたもんねえ」
「だって、キスもセックスも、手を繋いだり抱きしめ合うことですら……慎みと節度をもって行うべきみだらな愛情表現(、、、、、、、、)なんて、そんな世界の話……信じられなくて」
「そりゃまた、過激思想の本だね」
 たまにあるよねそういう本、と五条さんが苦笑いしているのが、下腹部の肌に響いて分かる。
 キスやセックスの話題は人前ではつつしむべき。
 そのような、みだらな愛情表現(、、、、、、、、)の話はプライベートなごく限られた場でのみ交わされるべき。
 そういう日常が、本来の世界であり、そこにはアルファもベータもオメガもいない。人間の生殖能力は男と女という二種類だけ。

 そんな世界の話、ファンタジー以外の何物だというんだ?
 アルファもベータもオメガも存在しない世界があるとしたら、そこに生きる人たちは、たとえば生まれた時から課されている役割をどうやって受け入れるんだ?
 なにより、愛情表現を社会や慣習が制限するなんて、なんの権利があってそんなことを人類が許容するというのだろう。
 本の内容を反芻していると、読書中に感じた理不尽さやいらだちがゆらゆらと戻ってくる。
「ハズレを引いちゃったんだ、七海」
「そういうことも、んっ、たまには、あります」
「イライラしながらでも途中で読むのをやめないの、ちょっとセクシーで、横で見てる分には毎日ちょっとヨかったけどね」
「そんなこと考えてたんですか。変態。ぁん……アナタ、ひとりで勝手に焦らされた気分になって、楽しんでたんですね、悪い人だ」
 ぐっ、と腰にまとわりつく力が強くなる。五条さんの腕によってみちみちと内臓を締め上げられるような心地に、また声が漏れる。
 そうなのぉ、と五条さんは明るい声で肯定して、腰にまとわりついた格好のまま私の顔を見上げてきた。室内灯のひかりをすべて青い目に反射した、ぎらぎらとした両目と見つめ合う。
「悪い子なの、僕。何日分だろう、四日? 五日? ひとりで楽しんでた僕を、七海は、叱るよね?」
「んっ、アナタが、そうしてほしいんでしょう、五条さん」
 私はもう手のひらにもじっとりと汗をかいている。その手で五条さんの前髪をかきあげてやると、彼は心底たのしそうに両目を細めた。
「僕をさみしがらせたオマエも、お説教だよ」
「五条さんが勝手にさみしがってたんでしょ」
「さみしがってほしくて、僕をほったらかしにしてたんでしょ? 七海も、僕に、叱ってほしくて。なあ、そうだろ」
 恫喝のような強い口調で笑う五条さんは、なんの前触れもなく、いきなり私のペニスを鷲掴みにして、一度だけ強くぎゅうと握りしめる。思わず私が悲鳴をあげるのを、狙い通りという表情で楽しんでいる。
 こういう愛情表現が制限された世界なんて、やっぱりありえない、と思う。
畳む


めちゃくちゃに抱かれながらも「私のオメガにしたい」と五条を見上げる七海の図が見たくてェ〜〜

メモ,原稿